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大嘗宮「板葺き屋根」への変更 総理の汚点とならぬことを祈る 辰 守弘

令和元年07月01日付 5面

 報道によれば、一代一度の大嘗祭における大嘗宮の屋根が、茅葺きではなく板葺きに変更されるとのことであったが、果たしてこの決断は正しいのであらうか。余りにもお粗末なことを基準に置いた、大きな誤判断なのではなからうか。
 もとより板葺き屋根への変更といふ方針は、宮内庁長官を委員長とする大礼委員会で示されたものではあるが、わが国の内閣の首長たる安倍晋三総理は、素晴らしい判断だとでも思ったのだらうか。多忙のため判断力が鈍ってゐるのだらうか。それとも占領軍の毒が身に回ってゐて、いかんともしがたくなってゐるのだらうか。さうではないであらう。単に経費を念頭に置いてしまったのだらうが、大事に当たっての誤った判断は、国史の汚点となるし、国威をも傷つけてしまふことになる。さうしたことを本当に理解した上での決断だったのであらうか。ことは皇室国家にとっての大事であり、真摯に考へてもらはねばならない。
 皇統が連綿と受け継がれるわが国において、令和元年である今年の大事こそ、秋に予定されてゐる大嘗祭であり、その意義を再認識すべきではなからうか。世俗にまみれるなか、祖父である岸信介総理にとっては自明だったことが、時の流れとともに稀薄になってしまふことは否めないにしても、血統のみならず精神的にも継承者たる立場にあるならば、本来の形を死守すべきであらう。これは世俗権力の圏外にある、わが国の神聖なる大事なのである。伝統のなんたるかを弁へず、無自覚の徒が経費削減を優先して提言したものを黙認し、結果的に伝統破壊を遂行することになるのでは、余りにお粗末ではなからうか。それでよいのだらうか。後悔先に立たずである。
 聖俗合はせ理解する立場の代表こそ首相ではなからうか。在任期間の長さなどより、大事に当たって適切に判断し、結果を残すことこそ重要である。国家の大事なのであるから、手を抜かずに責務を果たしてほしい。さうしたことが理解できぬほど麻痺してゐる安倍総理ではないだらうから、従前の例に倣ひ、板葺き屋根ではなく、茅葺き屋根の大嘗宮を実現してほしい。それが名実共に重要な責任者の任にある総理の責務ではなからうか。安倍総理の勇断を願はずにゐられない。
 現状は経費を節約しようとして、伝統破壊と称され得ることをあへてしようとしてゐるのである。優秀な官僚の不足が露呈したといふことであらうが、伝統を多少とも意識するのであれば、伝統の茅葺きの形態は守られるべきものであらう。暗愚の総理でなければ、正しい判断がどちらであるか自明であらう。大嘗宮を本来の姿のままとするやう、計画の一部是正を切に願ふものである。
(土民倶楽部代表、愛知・真清田神社宮司)