論説
田植ゑの季節 稲作振興と祭祀厳修に向けて
令和7年06月16日付
2面
今年も各地からお田植ゑ祭の報告記事が届く季節となった。本紙でも紹介されてゐたやうに天皇陛下にもすでに五月十四日、皇居内の水田でお田植ゑに臨ませられてゐる。
昨夏以来、米不足・米価高騰が課題となるなか、今年は各地の農業団体などが一般を対象に実施してゐる田植ゑ体験などにおいて、参加申込みが増加するやうな事例もあるといふ。米価高騰との関係で「適正価格」といふことがしばしば聞かれるやうになったが、消費者と生産者との相互理解に向けて、田植ゑをはじめとする農業体験は貴重な機会の一つといへるだらう。
各地での田植ゑの盛況を慶びつつ、米の安定供給を願ふとともに、なにより稲の順調な生育と秋の稔りを祈念するものである。
○ 農林水産省においては、米価の高騰を受けて三月から競争入札による備蓄米の放出を始めたが、複数回に亙る放出後もなかなか状況の改善が見られないなかでの五月十八日、農水相の江藤拓氏が講演で「私は米を買ったことがない。支援者の方々がたくさん米を下さり、売るほどある」などと発言。内外からの批判の昂りを受けて辞任に追ひ込まれた。
後任となった小泉進次郎氏は、早急に米価高騰を抑制して消費者の米離れを防ぐ必要があるとの観点から、随意契約による備蓄米の放出を決断。ほどなくスーパーなどの小売店において五㌔二千円前後での備蓄米の販売が始まり、極端な場合では前日から列に並んだといふ購入者の様子なども盛んに報じられた。この随意契約による備蓄米の放出に対しては、迅速な対応を評価する声がある反面、買受者の資格や条件を含めた制度的な公平性の担保、対策の継続性と影響の及ぶ範囲、さらには先に競争入札で放出した備蓄米との兼ね合ひ等々、さまざまな課題なども指摘されてゐる。
植ゑ付けられた早苗が新米として全国に出回るまでには、まだまだ時間があらう。このまま価格・供給の安定化に繋げられるのかどうか、引き続き農水省の対応、市場の動向から目が離せない。
○ この間の五月三十日、農水省は令和六年度の「食料・農業・農村白書」を公表してゐる。
そのなかでは、昨年改正された「食料・農業・農村基本法」に基づき、四月十一日に閣議決定された新たな「食料・農業・農村基本計画」において、令和九年度から水田政策を根本的に見直すと位置付けたことを紹介。その見直しの方向性として、国内外の需要拡大策、農地の大区劃化、ロボット技術やICT(情報通信技術)などスマート農業技術の活用、品種改良等の生産性向上策等を強力に推進するとともに、輸出を含めた米需要拡大を目指し、新市場開拓用米、米粉用米等への支援をおこなふことなどを示してゐる。
また先に少し触れた農業体験に関して、「国民の食生活が自然の恩恵の上に成り立っていることや食に関わる人々の様々な活動に支えられていること等に関する理解を深めるため」の取組みが進められてゐることを紹介。農水省においても、さうした取組みの普及に向けた支援・情報発信に努めてゐることが説明されてゐる。
「国民の食生活が自然の恩恵の上に成り立っていること」に係る取組みの普及に向けた支援・情報発信はもちろん重要だ。斯界としては、その「自然の恩恵」のなかに「神々の働き」を感得する心を涵養していきたい。
○ かつて「統一性のある教化活動の展開を目指して~神宮奉賛活動と鎮守の森を中心にした神道の自然観の啓発に向けて~」を主題に神社本庁の全国教化会議が開催され、統一性のある教化活動の一案として稲作体験が例示されたことがあった。
稲作は「斎庭の稲穂の神勅」に起源し、古来、神社においては豊作祈願と収穫感謝の祭祀が連綿と続けられてきたのである。米不足・米価高騰のなかで稲作への関心が昂るなか、先人たちによる神話以来の神祭りの伝統、また稲作を営むなかで育まれてきた自然観・精神性の啓発にも努めたい。大御手振りに倣ひ、稲作の振興と祭祀の厳修に向けて、神田における稲作体験などに斯界を挙げてより積極的に取り組んでいきたいものである。
令和七年六月十六日
オピニオン 一覧