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論説 日本国憲法の改正 積み残した戦後の課題解決を

令和7年05月19日付 2面

 今号掲載の通り、五月三日の憲法記念日に第二十七回公開憲法フォーラムが都内で開催された。今年は「危機に立つ日本―各党は改憲の共同作業に着手せよ!」との呼びかけに、自由民主党・公明党・日本維新の会・国民民主党の改憲派四党が応じて参加。自民党総裁の石破茂首相はビデオで「緊急事態対応、自衛隊の明記に最優先で取り組みたい」とのメッセージを寄せた。
 しかしながら国会の憲法審査会における改正議論は、いつまで経っても纏まらない。改正条文案作りの起草委員会も未だ設置できてゐない状況だ。
 一方で世界を見渡せば、今やロシア・中国・米国の三大国による現状変更と勢力拡大競争の時代となった。これまでに築いてきた国際連合による国際平和維持機能も自由貿易体制も、大国の自国中心主義によって脆くも崩れつつある。わが国を取り巻く中国・ロシア・北朝鮮の脅威も年ごとに増大してきた。緊迫した現下の尖閣諸島と台湾をめぐる危機に対処し、国の独立と国民の自由や安全を今後とも確保していくためには、憲法の改正は避けて通れない国家的・国民的な積み残し課題といはねばならないのである。


 国会の衆参両院に憲法審査会が設けられたのは平成十九年で、すでに十七年余が経過した。
 衆院憲法審査会の委員として長く改憲の議論をリードしてきた維新の会の馬場伸幸前代表は、改憲の実質討議はこの三年間で計四十九回おこなはれたが、議論の大半は緊急事態条項に費やされ、すでに論点は出尽くしてゐることを強調。昨年の衆院選で自民党が敗北し、同審査会会長が立憲民主党の枝野幸男元代表に代はり、同じやうな議論の繰り返しを続けてゐることについて「壊れたテープレコーダー」のやうだと述べて慨嘆してゐる。かねて憲法審査会における一つの成果として、緊急事態条項の新設に向けた条文起草委員会の早期設置を求める意見もあるものの、自民党のなかに立憲民主党の同意取り付けに拘る慎重な姿勢も見られるやうで、残念ながら状況はなかなか進捗してゐない。
 一方、参院の憲法審査会では、憲法第五十四条二項に「衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる」とあることを楯に、立憲民主党が緊急事態条項の新設に強硬に反対してきた。緊急集会は、国会の二院制の下で解散のない参院に与へられた特別の権能であるだけに、参院では与党のなかにも緊急事態条項の不必要論があり、衆院に対抗して議論はなかなか纏まらない状況なのだ。


 自民党は今年、昭和三十年十一月十五日の立党から七十年の節目を迎へる。結党時の「党の政綱」では、「現行憲法の自主的改正をはかり、また占領諸法制を再検討し、国情に即してこれが改廃を行う」ことを掲げた。さらに「世界の平和と国家の独立及び国民の自由を保護するため、集団安全保障体制の下、国力と国情に相応した自衛軍備を整え、駐留外国軍隊の撤退に備える」ことも明確にしてゐる。
 当時、前年六月に自衛隊法と防衛庁設置法が成立し、七月に陸海空三自衛隊が発足した。占領下で作られた憲法の自主改正と、米軍の将来的な撤退を前提にした自衛軍備の整備に向け、先人たちの並々ならぬ熱意と覚悟が伝はってくる。衆参の自民党国会議員は、今こそこの立党精神の原点に立ち戻り、現在のわが国が置かれてゐる戦後最も厳しい安全保障環境の実情を率直に国民に訴へかけながら、真剣に憲法改正の実現といふ所期の目的達成を目指してもらひたい。


 憲法上に緊急事態条項を新たに設ける大事な目的は、外部からわが国に対する武力攻撃があった場合をはじめ、サイバーテロなどにより電力や交通などインフラに被害があって大規模な社会混乱が発生した際、また東日本大震災のやうな自然災害や新型コロナウイルス蔓延などの非常事態に見舞はれた時のため、内閣・国会・国民それぞれの権能と責務を明確化しておくことにある。それはあくまでも国民の生命・財産を守るためである。
 かうした事態は現行憲法が制定された米軍占領下においては想定されてをらず、九条とともに占領諸法制の最大の欠陥の一つといはねばならない。
令和七年五月十九日

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