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杜に想ふ 循環してゆく未来 山谷えり子

令和7年06月02日付 5面

 ホタルが飛び交ふ季節となった。紫陽花が色鮮やかに咲く様を見ながら、紫陽花の色は土壌が酸性だと青くなり、アルカリ性の場合は赤くなると教はったことを思ひ出して、花の色と土の性質のつながりに自然の神祕を思はせられてゐる。
 さて、大阪・関西万博が「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに開かれてゐる。このところSNSの肯定的な書き込みなどで入場券の売れ行きも好調に転じてゐるといふ。先日、私は内容といふより、元国家公安委員長として警備状況が気になり足を運んでみた。すると報道でおなじみの大屋根リングが目に飛び込んできた瞬間、日本の木造建築の歴史と伝統に包まれて体が思ひがけない強さで揺さぶられ魅了されてしまったのである。自分でも予想しない反応であった。スギ、ヒノキ、オウシュウアカマツを使用し、神社仏閣で使はれてゐる貫接合と現代工法を組み合はせた一周二キロ、高さ最大二十メートルの世界最大の木造建築物としてギネス世界記録に認定された大屋根リング。スカイウォークと呼ばれる回廊を大阪湾の海風に吹かれながら歩いてみると、史上初の海上万博の力を感じ、また緑地エリアの草の香りとともに歩き続ければ、自分の体と心の膜が次々とはがされ、宇宙の気が体内にザッと入り込んでくるのが感じられた。
 開会式で天皇陛下が「大阪・関西万博を契機として、世界の人々が、自分自身だけでなく、周りの人々の『いのち』や、自然界の中で生かされている様々な『いのち』も尊重して、持続する未来を共に創り上げていくことを希望します」と述べられたことが、ああ、かういふことかと肉体をもって得心された。大屋根リングは輪をもって、天と地と、陰と陽とすべてを結ぶ大和の心であったのか、ともひとり合点のやうに思はれ、空と海の広さを体いっぱいにいただいた。
 「多様でありながら、ひとつ」を表すシンボルとして作られた回廊は閉会後に解体、撤去、一部リサイクルする計画だといふが、一部を保存しようとの声もあり、六月下旬に最終案を決定するといふ。保存には維持管理費など課題もあるが、来場者の八割がアンケートで印象に残ったと答へ、日本の木造建築技術と和の心、循環のシンボルを体で感じる稀有なレガシー建築としてまるごと保存すれば、将来世界遺産にもなりうるのではないかと思はれるほどであった。
 「日本館」では自然界の循環に役割を果たす藻類や微生物に関する展示、伊勢の御遷宮の解説もあり、循環思想、命のリレーへの眼差しが示されてゐた。歴史、文化、つながりをこのやうに表現した大阪・関西万博は百五十八の国と地域が参加し、万博外交も活溌である。格差と分断で疲れてゐる人々の心が結び直されるやう、暑さ対策や危機管理に尽力してゐる関係者に感謝したい。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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