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杜に想ふ 日本を知る 山谷えり子

令和6年05月06日付 5面

 田植ゑも始まり、木々の緑が輝く五月。十日からは愛鳥週間も始まる。野鳥たちは卵を産み、スズメのヒナの一番子はシーシーと愛らしく鳴き、ホトトギスのしのび音も聞こえてくる。「卯の花の匂ふ垣根に、時鳥早も来鳴きて……」と歌ふ日本の叙情はなんと豊かなことだらう。
 中学二年になったばかりの孫の新しい音楽の教科書(教育芸術社)を見てゐたら、明治二十九年に世に出たこの「夏は来ぬ」の歌も載ってゐた。作詞した佐々木信綱は歌人で万葉集の研究者でもいらっしゃる。そして、この「夏は来ぬ」は二十四節気、立夏の五月五日頃とまさに今の季節で、張り切って孫に歌ってみせた。音楽の教科書には「早春賦」「椰子の実」「荒城の月」など、繋いでほしい日本のこころの歌も載ってゐる。さらに、勧進帳の「霞ぞ春はゆかしける波路はるかに行く舟の海津の浦に着きにけり……」と義経一行が船で琵琶湖を渡り海津の浦に着いた時の長唄まで載ってゐるではないか。早速スマホで検索し、この長唄も孫と一緒に聞きながら味はってみた。音楽のいろいろなジャンルを聴いてみようといふ頁には広沢虎造の浪曲から、笠置シヅ子、美空ひばり、かぐや姫の神田川からビル・エヴァンスまで紹介されてゐるではないか。しかも、今の時代はこれらすべてが検索できる。それぞれの時代、国内外の社会背景まで世代を超えておしゃべりできたのは実に楽しいことであった。
 国語の教科書(光村図書)に目をやると、こちらも季節感を大切にした頁があって、私の好きな短歌「くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる」(正岡子規)も載ってゐる。郷土ゆかりの作家の一覧表もあって、たとへば私のふるさと福井は高見順が紹介されてゐる。先日、孫とお墓参りした折、高見順の育った家を訪ねたばかりだったので、思ひ出話をはづませた。英語の教科書(三省堂)には、海外から訪日された人に日本の文化、着物、書道、武道や落語を紹介する内容があり、日本を知ると同時に、国際人として心を広げる構成となってゐる。第一次安倍内閣の教育基本法改正により、教育の目標の一つとして「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」と記されたことが令和の時代にこのやうな形で反映されてゐることに胸が熱くなった。
 娘は孫と私のかうしたやりとりを聞きながら「良いこといっぱい勉強してね。ママも一所懸命お弁当作るから」と笑顔で応へてきた。
 学舎にひびかふ子らの弾む声さやけくあれとひたすら望む(今上陛下)
 次の世代に希望をもち、すべての親子や先生たちにエールを贈り続けたい。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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