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簡単に覚えられる歴史的仮名遣ひ簡単に覚えられる歴史的仮名遣ひ

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7. 語中語尾にエがきても「え」あるいは「ゑ」と表記するもの

  「へる・える・ゑる」の項で説明したとほりです。「え」と書くのはヤ行の動詞、「ゑ」と書くのは「植ゑる、据ゑる、飢ゑる」の三語のみです。ただ、動詞以外で「ゑ」の表記が少し残ってゐますので、それを次に記します。これも普段は漢字で表記しますから、問題はありません。
 こゑ(声) すゑ(末) ちゑ(知恵) つくゑ(机) つゑ(杖) ともゑ(巴) ゆゑ(故)

【語頭のゑ】
ゑ(絵) ゑ(餌) ゑ(会) ゑぐる(抉) ゑふ(酔) ゑむ(笑)

8.語頭、語中、語尾のオを「を」と書く場合がある

•  を(尾) を(緒) を(小)
•  をす(雄) をとこ(男) をっと(夫) ををしい(雄々しい)
•  をんな(女) をとめ(少女) をさない(幼)…これらは小さい、か弱いの意味があり、小(を)を用ゐる。
•  をか(岡) をぎ(荻) をけ(桶) をさ(長) をしどり(鳥の名)をとり(囮) をどり(踊) をととし(一昨年) をととひ(一昨日) をり(澱) をろち(大蛇) をかしい をこがましい をさをさ
•  をる(居…をります) をる(折…~のをりから、をりをり等) 
をかす(犯す) をがむ(拝む) をさめる(納、治) をしむ(惜) をしへる(教) をはる(終) をののく

【語中語尾のを】
 あを(青) いさを(勲) うを(魚) かをり(香り) さを(棹) とを(十) みさを(操) めをと(夫婦) たをやか しをれる まをす(申) をがは(小川)

9.「ゐる」と「いる」

 「歴史仮名」の代表選手にはハ行の仮名遣ひと、「現代仮名」では抹殺されてしまった「ワ行」の「ゐ」と「ゑ」があります。このうち「ゑ」については説明しましたので、ここでは使用頻度の高い「ゐる」について書きませう。
 「歴史仮名」では「イル」と発音するものに「ゐる」と「いる」の二通りの表記法があります。「ゐ」は、「居、為、井」の漢字を仮名書きにしたもので、「〜して居る」の「居る」といふ動詞にこの「ゐる」を用ゐます。ほかに「用ゐる」と「率ゐる」の二語があります(ただし、「用ゐる」は「用ひる」と書く場合もあり、どちらを用ゐても構ひません)。それだけです。ほかに用例はありません。
 因みに、「居る」は「オル」とも読みますので、この場合の「オル」もワ行で、「をる」と書きます。「〜してゐます」「〜してをります」はよく出てくる用例ですので、「ゐる」「をる」は「居」といふ字にあたるものだと頭に入れておいてください。
  なほ、「〜しておきます」と「〜してをります」をよく間違へる人がゐます。前者は「置きます」で「お」ですので、注意してください。
  では、「いる」と書く場合はどれか。「必要」といふ意味の「要(い)る」、「入る」意味の「入(い)る」、それに「射る」、と「煎る」があります。そのほかに語の活用としてでてくるのに「老いる、悔いる、報いる」の三語があります。これも文語で「老ゆ、悔ゆ、報ゆ」とヤ行の動詞だからです。
  要するに、「ゐる」は「〜してゐる(ゐます)」と「用ゐる、率ゐる」で、それ以外は「いる」と覚えておけば何でもありません。
  ここで要注意。間違ひやすいのが二例あります。一つは「〜していらっしゃる」といふ用語です。「ゐる」の敬語のやうだから「〜してゐらっしゃる」と書きたいのですが、これは「ゐる」の敬語ではなく、文語の「入らせらる」といふ敬語です。ですから、「ゐらっしゃる」は間違ひで、「〜していらっしゃる」と書くのが正しいのです。「いらっしゃいませ」も同じですね。この方が「入らっしゃいませ」だといふ意味であることがよくわかりますね。
  もう一つは「いますが如く」といふ用例。これは漢字で書くと「在す・坐す」と表記します。「いらっしゃる」と同義の尊敬語です。
  なほ、ここでは「ゐる」と「いる」について述べたのであって、「ゐ」とつく単語についてはほかにもあります。「〜のせゐで」といふのは漢字で「所為」と書きますから、「ゐ」です。「まゐる(参る)」と「くらゐ(位)」はよく遣はれる用例です。そのほか、「ゐど(井戸)」「ゐのしし(猪)」「あぢさゐ(紫陽花)」「くれなゐ(紅)」「ゐなか(田舎)」「とりゐ(鳥居)」「もとゐ(基)」「しほさゐ(潮騒)」等々ありますが、これらはほとんど漢字で表記しますから問題はありません。「せゐ」と「まゐる」「くらゐ」ぐらゐは覚えておきませう。
  ここで注意したいのは、「ございます」を「ござゐます」と書く人がゐますが、これは間違ひです。「御座居ます」と漢字で書くことがありますので、「居…ゐ」と考へるわけですが、この漢字表記が当て字で、本来は「ござります」が変化したもので、「ございます」が正しい表記です。