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簡単に覚えられる歴史的仮名遣ひ簡単に覚えられる歴史的仮名遣ひ

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10. 「やう」と「よう」

 「現代仮名」で「よう」と書くものに、「やう」と「よう」の二通りあります。「やう」は漢字で「様」にあたるものだけです。使用度の高いものは、「花のやう(様)に美しい」「御出席くださいますやう(様)ご案内申し上げます」の「やう」がありますが、そのほか、「しやう(仕様)がない」「やうす(様子)を伺ふ」「さやう(左様)なら」「さやう(左様)ですか」「見やう(様)見まね」などがあります。
 では「よう」は何か。英語でwill,shallにあたる意志を表す助動詞がこれで、あとは「様」以外の漢字で「ヨウ」と読む漢字(用、洋、幼、要、陽そのほか多数)です。意志を表す助動詞は動詞の未然形につくものですから、「受けよう」「食べよう」「見よう」「しよう」などがあります。
 ここでちょっとまごつくのは、「見よう」と「見やう」、「しよう」と「しやう」です。音が同じで二通りの遣ひ方がありますので注意をしてください。でも簡単です。「よう」と「やう」では意味が違ひますから、すぐにわかります。「見よう」は「見てやらう」、「しよう」は「してやらう」といふ意味で、この「やらう」といふ語におきかへることのできないものが「やう」だと覚えておきませう。
 なほ、ついでに「せう」も覚えておきませう。「せう」は「現代仮名」では、「しょう」と「よ」を小さく書く拗音のみに用ゐます。

11. 「かうして」と「さうして

 「現代仮名」で「こうして」「そうして」は、「歴史仮名」では「かうして」「さうして」と書きます。「こうして」も「さうして」も意味の上から仲間の言葉として考へてみませう。
 ここで問題となるのは、「かう」と「さう」です。
 「かう」からいきませう。「かう」は、「かくして」「かくいふ」「かくする」「かくなる」「かくあれば」などの、「く」が「う」の音に変化したものです。これを文法用語で音便変化といひます。この場合は、「く」が「う」に変はったもので「ウ音便」といひます。
 音便変化には、このほか「き」が「い」に変はる「イ音便」もあります。例へば「大きに」が「大いに」、「さきはひ」が「さいはひ」、「於きて」が「於いて」、「就きて」が「就いて」に変はるものです。それから促音便(「現代仮名」で小さな「っ」を遣ふつまった音)、撥音便(「現代仮名」で「ん」とはねる音)があります。
 変化したのは「く」だけで、語根である「か」は変はってゐません。したがって、「かうして」「かういふ」「かうする」「かうなる」と書くわけです。
 語根は変はらない、動かないから語根といひます。「現代仮名」はその語根をいぢくった。手をつけてはならないものに手をつけたので、過去と現代の繋がりがわからなくなりました。「こうして」「こういう」では、「かくして」「かくいふ」との繋がりがなくなり、語としての説明がつかなくなってしまひました。「現代仮名」は「日本語の破壊」といはれるゆゑんはここにあります。
 次に「さう」をみてみませう。
 「さう」は「さくして」といふ言葉がありませんから、これは音便変化ではありません。「さ・して」ののびた音です。音便ではないけれども、意味の上から「かうして」と同じ仲間の言葉で、非常に近い仲間であるがゆゑに、「かく」が「かう」と変化したのにつられて、「さーして」ののびた部分に「う」が入り込んだ、とみたらどうでせう。「さういふ」「さうする」「さうなる」も皆同じです。

 「かうして」も「さうして」も仲間の言葉として一緒に覚えませう。
「さうして」は、漢字で「然うして」と書きますが、この「然」を「さ」と読むのが字音仮名といふ説明もあります。様を「やう」と書くのも字音仮名です。字音仮名にはあまりこだはりたくありませんが、この「やう」と「さう」だけは「歴史的仮名遣ひ」として残しておきたいものです。

12.「ありがたう」「おめでたう」

 音便変化が出たついでに(この「ついで」も「つぎて」のイ音便)「ありがとう」「おめでとう」も説明しませう。
 「現代仮名」は、「ありがとう」「おめでとう」と書きます。この語尾の「う」は音便変化によるもので、もとは「ありがたく」「おめでたく」の「く」が「う」に変はったものです。語根は「ありがた」「おめでた」で、語根は変化しないといふのが原則ですから、音便変化した「う」だけを語根につければいいわけです。「ありがとう」「おめでとう」では、語根に変化をきたし、一方では「ありがたい」「ありがたく御礼申し上げます」、「おめでたい」「めでたく合格した」といふ表記法がありながら、同じ言葉で表記法が語根から違ふといふのもをかしなものですね。