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杜に想ふ チベットの未来 山谷えり子

令和7年07月07日付 5面

 商店街を子供らが書いた七夕の短冊を読みながら歩くのが楽しみな季節である。愛と祈りに満ちてゐて、人間は本来他者の幸福と、自らを高めようとする思ひにあふれてゐるのだなぁと思ふ。SNSでは叩き合ふ言葉を見ることも多い今日だが、不幸の種をまかずに、七夕の短冊のやうに幸福の種をまき合ったらいいのにと素朴に思ってしまふ。
 ところで、七月六日にダライ・ラマ法王が九十歳のお誕生日を迎へられた。私は超党派の「日本チベット国会議員連盟」の会長を務めてゐる。日本の議連は世界最大で、その人権の状況が深刻であることから、先月「チベットに関する世界国会議員会議」を開催した。
 これまでイタリア、英国、カナダなどで開かれ、前回はアメリカでペロシ下院議長が開会式の司会をされてゐる。今回、日本の議員会館での九回目の会議には二十九カ国から国会議員、研究者、ジャーナリスト、NGО関係者ら百四十二人が参加し、過去最大規模となった。ウイグル人や台湾からの出席もあって、記者会見には多くの記者の出席があったのだが、ほとんど報道されなかったのは残念である。
 ダライ・ラマ法王はこの三月、中国政府との七十年以上にわたる闘ひを回顧する自伝を出版され、X(旧ツイッター)に「この本が今日の新たな思考と対話を促し、私が死んだ後もチベットの未来のための枠組みを提供してくれることを願ふ」と発信された。ノーベル平和賞を受賞されてから三十六年になるが、チベットの状況は厳しくなるばかりである。現在、次の法王認定に中国が介入してきてゐるが、チベット仏教の法王は転生といふ考へ方に基づいてチベット人により選ばれるもの。中国の介入を許せば、すなはちそれはチベット仏教が危ふくなることを意味してゐる。また、チベットは十の大河の源流となってゐる。メコン川、黄河、インダス河などで、十八億以上のアジアの人々を潤してをり、川の汚染も心配されてゐる。
 それぞれの民族の存在、宗教、価値観は美しく、私たち人類にとってすべてが貴重な宝である。チベット語、チベット仏教は千三百年の歴史があるといふのに、中国政府はチベットを“チベット”ではなく“シーザン”といふ中国語で呼び、昔から中国の一部であったと歴史の書き換へや情報操作をおこなってゐる。チベットの子供たちは寄宿学校に送られ、中国語での教育によりチベット人として生きる言語、宗教、文化を奪ひ続けられてゐる。チベット亡命政府のペンパ・ツェリン主席大臣は、その深刻さを訴へられた。
 かうした状況は国連人権理事会でも大きな問題とされてをり、日本での会議ではチベット人がチベット人として生きる権利を守るための東京宣言と行動計画を採択した。言語、宗教は国民の生命そのものであり、人類の宝である。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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