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時の流れ研究会 これまでに二回の見解

平成29年09月11日付 8面

 今年六月五日付紙面で発表した「天皇陛下の譲位関連問題に対する『時の流れ研究会』の見解」、七月八日付で発表した「御譲位(退位)・御即位・改元の期日並びに関連する祭祀・儀式・行事などについての見解」は次の通り。また参考として、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」及び、それに関して七月二十一日に神社本庁が発表した「神社本庁の基本的姿勢」と「神道政治連盟会長談話」を掲載する。

天皇陛下の譲位関連問題に対する「時の流れ研究会」の見解 平成二十九年五月三十一日 天皇陛下が「生前退位」の御意向を示されたといふ速報が、昨年七月十三日、NHKより流れ、マスコミ各社が一斉に追随した。適切なる皇室報道の在り方を問ふことを創刊以来、社是とする神社新報社としては、本報道はまさしく晴天の霹靂、にはかには信じ難い内容であった。
 しかし、天皇陛下には「象徴としてのお務めについてのおことば」として、およそひと月を経た八月八日、ビデオメッセージといふ形で「お気持ち」を述べられ、国民の理解を求められた。「皇室祭祀の継承者」として日々国民の安寧を祈られ、全身全霊を以て、日本国家と日本国民統合の「象徴」としてのお務めを果たされてゐる陛下の「お気持ち」を拝し、爾来、私どもは、何よりも陛下の御健康と平成の大御代の安寧と弥栄えを祈念しつつ、「おことば」にこめられた陛下の「お気持ち」に如何に副ひ奉ることができるかについて、思ひをめぐらしてきた。
 そして今般、昨年秋に設置された「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」の「最終報告」が四月に出され、それをもとにした政府及び国会各会派での協議・検討を経て、今上陛下の御譲位及びそれに伴ふ関連事項を盛り込んだ「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案」(以下、「特例法案」といふ)が国会で審議されることになった。
 ここに、発表された特例法案に関連する諸課題について、神社新報社に設置する「時の流れ研究会」の意見を表明する。

一、特例法案の審議に関して

 特例法案の内容は、近代以降の皇室制度、並びに現行憲法にも例を見ない文字通りの「特例」である。皇室制度において最も重きを為す皇位継承に関はる法案であることに鑑み、とくに、①「譲位」に代はり「退位」といふ言葉が使用されてゐること、②今上陛下の御譲位後の皇后陛下の称号を「上皇后」としてゐること、③御譲位後に皇位継承順位第一位となられる秋篠宮殿下を、「皇位の継承に伴い皇嗣となった皇族」として、引き続き内廷外の皇族とし、待遇のみ「皇太子の例による」ものとしてゐること、の三点は、皇室の長い歴史の先例を十分に検討・熟慮した上で、結論が導かれねばならない。今国会の委員会において、皇室の伝統の重みを踏まへた慎重な審議が改めてなされることを期待する。

二、御譲位に伴ふ儀式と践祚に関して

 特例法案はその性質上、譲位に伴ふ儀式については触れてゐないが、江戸時代における光格天皇以前の例では、前帝による「譲位の宣命」に続いて神器が継承されることを以て新帝の践祚(即位)とした。この度も譲位と践祚は一体の行事として位置づけられるべきであり、今上陛下の践祚にあたっての「剣璽渡御の儀(剣璽等承継の儀)」と同様、譲位の儀は当然、国の行事として執りおこなはれるべきである。
 また現行の皇室に関はる重儀は、昭和二十二年に廃止された「登極令」「立儲令」「皇室祭祀令」などの皇室令及び附属法令を尊重し、それに準拠して斎行されてきた。しかし、譲位に関しては「皇室典範」に規定されてゐないゆゑに、戦前に整備された関連法令にもその規定は存在しない。本会としては皇室の伝統を踏まへた「譲位に関はる儀式」が、「即位に関はる儀式」と同様に宮中三殿における祭祀を主体に斎行されることを強く願ふ。

三、御譲位の時期に関して

 特例法案は施行期日、即ち「退位」の期日については、「(この法律の)公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日」とし、「(政令を定めるに当たり)皇室会議の意見を聴かなければならない」としてゐるが、践祚・改元と一体であるべき御譲位の期日については、平成三十一年一月七日が「昭和天皇三十年式年祭(大祭)」といふ天皇・皇室にとって重要な祭祀の斎行日であることを踏まへ、さらには国民との紐帯を何よりも重視される今上陛下の御即位三十年を奉祝申し上げたいとの国民の願ひを十分に考慮、検討されることを強く願ふ。

四、皇室制度整備の必要性

 「有識者会議」の「最終報告」では、その「おわりに」において、「皇族数の減少に対する対策について速やかに検討を行うことが必要」であることに言及してゐる。このことについては改めて、皇室制度に関する叡知を結集し得るしかるべき機関を設置して、全般的な皇室法の整備と合はせて検討することが求められる。また検討にあたっては、旧皇族及びその子孫にあたる方々の皇籍復帰・取得等、皇室の伝統の重みを十分に踏まへた安定的な皇位継承の具体的な方途についても考慮すべきと考へる。

をはりに

 戦前に整備された皇室令及び附属法令は占領下に廃止され、現行の法令は国家の非常時に制定されたことからさまざまな不備があることがこれまでにも指摘されてきた。戦後七十年間未整備のままであったと言っても過言ではなく、皇室の伝統と尊厳を護持してゆく上で大きな障壁となってゐることは自明の理である。
 この間、神社新報社としては、社内に「皇室法研究会」を組織し、葦津珍彦他、関係者が結集して『現行皇室法の批判的研究』(昭和六十二年)などの出版物を刊行し、肝要となる諸問題を提議してきたが、御代が昭和から平成へと移って以降、それらについて十分なる研究、活動を展開してこなかったことは反省されねばならない。
 戦前、皇室典範は憲法とともに皇室・国家の根本法とされてきた。しかし現在は、単なる一法律として位置づけられてゐる。今一度、当時の叡知が尽くされた明治の皇室典範の成立過程に鑑み、その重要性と皇室の伝統を踏まへながら、喫緊の課題たる皇族数の問題への対処はもとより、現行皇室典範のみならず、戦後廃止されたままの皇室令及び附属法令の見直し・整備等も含めて、抜本的に皇室制度の在り方を早急に検討すべきである。以上
(神社新報 平成二十九年六月五日付紙面)

御譲位(退位)・御即位・改元の期日並びに関連する祭祀・儀式・行事などについての見解 平成二十九年七月八日 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が本年六月九日に国会で成立し、十六日に公布された。「退位」の期日は、「公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日」となった。今後、政府は天皇陛下の御退位と、皇太子殿下の御即位、改元の期日、また宮内庁では御代替はりに関連する儀式の実施方法を協議する準備委員会を設置し、政府とともに具体的なあり方について本格的な検討を始めるであらう。
 それにあたり、現憲法のもとではじめてとなる御譲位(退位)による御代替はりに際して、関連する期日ならびに祭祀・儀式・行事などが、伝統を尊重し、後世の良い指針となるやう、関係機関の真摯な尽力を切に念じてやまない。
 本研究会では六月五日付紙面で「天皇陛下の譲位関連問題に対する見解」を発表したが、標記の事項について見解の要点を改めて発表し、紙上を以て関係機関に提言する。

一、御譲位(退位)・御即位と改元の期日について

1 平成三十一年一月七日予定の「昭和天皇三十年式年祭(大祭)」は、十年祭・二十年祭と同様に今上陛下の御親祭により斎行されることを切望する。
 右により、御譲位(退位)・御即位日は、平成三十一年一月七日の昭和天皇三十年式年祭ならびに御即位(践祚)三十年奉祝の政府式典の後であることが望ましい。なほ、改元日は四月一日が一例として想定され得るであらう。
2 平成三十一年は今上陛下が御即位されて満三十年であり、慶賀の年である。是非とも十年・二十年にならひ、「奉祝」と「感謝」の政府の記念式典・行事の実施を国民として希望する。

二、御譲位(退位)・御即位(剣璽等承継の儀)・即位後朝見の儀にあたっての儀式・祭祀について

3 御譲位(退位)の儀式と御即位に関はる儀式(剣璽等承継の儀)は、歴史・伝統からして一連のものとして「国の儀式(天皇の国事行為)」として斎行されるべきである。
4 このたびの御代替はりは、明治以降の例と異なり、崩御ではなく、御譲位(退位)に伴ふことから、それを踏まへて、各儀式にあたっては旧登極令・旧皇室祭祀令等を参酌して、宮中三殿及び神宮・山陵を主体とする祭祀の斎行を検討願ひたい。以上
(神社新報 平成二十九年七月十日付紙面)

(参考)天皇の退位等に関する皇室典範特例法


 (趣旨)
第一条 この法律は、天皇陛下が、昭和六十四年一月七日の御即位以来二十八年を超える長期にわたり、国事行為のほか、全国各地への御訪問、被災地のお見舞いをはじめとする象徴としての公的な御活動に精励してこられた中、八十三歳と御高齢になられ、今後これらの御活動を天皇として自ら続けられることが困難となることを深く案じておられること、これに対し、国民は、御高齢に至るまでこれらの御活動に精励されている天皇陛下を深く敬愛し、この天皇陛下のお気持ちを理解し、これに共感していること、さらに、皇嗣である皇太子殿下は、五十七歳となられ、これまで国事行為の臨時代行等の御公務に長期にわたり精勤されておられることという現下の状況に鑑み、皇室典範(昭和二十二年法律第三号)第四条の規定の特例として、天皇陛下の退位及び皇嗣の即位を実現するとともに、天皇陛下の退位後の地位その他の退位に伴い必要となる事項を定めるものとする。
 (天皇の退位及び皇嗣の即位)
第二条 天皇は、この法律の施行の日限り、退位し、皇嗣が、直ちに即位する。
 (上皇)
第三条 前条の規定により退位した天皇は、上皇とする。
2 上皇の敬称は、陛下とする。
3 上皇の身分に関する事項の登録、喪儀及び陵墓については、天皇の例による。
4 上皇に関しては、前二項に規定する事項を除き、皇室典範(第二条、第二十八条第二項及び第三項並びに第三十条第二項を除く。)に定める事項については、皇族の例による。
 (上皇后)
第四条 上皇の后は、上皇后とする。
2 上皇后に関しては、皇室典範に定める事項については、皇太后の例による。
 (皇位継承後の皇嗣)
第五条 第二条の規定による皇位の継承に伴い皇嗣となった皇族に関しては、皇室典範に定める事項については、皇太子の例による。
   附 則
 (施行期日)
第一条 この法律は、公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、第一条並びに次項、次条、附則第八条及び附則第九条の規定は公布の日から、附則第十条及び第十一条の規定はこの法律の施行の日の翌日から施行する。
2 前項の政令を定めるに当たっては、内閣総理大臣は、あらかじめ、皇室会議の意見を聴かなければならない。
 (この法律の失効)
第二条 この法律は、この法律の施行の日以前に皇室典範第四条の規定による皇位の継承があったときは、その効力を失う。
 (皇室典範の一部改正)
第三条 皇室典範の一部を次のように改正する。
  附則に次の一項を加える。
  この法律の特例として天皇の退位について定める天皇の退位等に関する皇室典範特例法(平成二十九年法律第  号)は、この法律と一体を成すものである。
 (上皇に関する他の法令の適用)
第四条 上皇に関しては、次に掲げる事項については、天皇の例による。
一 刑法(明治四十年法律第四十五号)第二編第三十四章の罪に係る告訴及び検察審査会法(昭和二十三年法律第百四十七号)の規定による検察審査員の職務
二 前号に掲げる事項のほか、皇室経済法(昭和二十二年法律第四号)その他の政令で定める法令に定める事項
2 上皇に関しては、前項に規定する事項のほか、警察法(昭和二十九年法律第百六十二号)その他の政令で定める法令に定める事項については、皇族の例による。
3 上皇の御所は、国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律(平成二十八年法律第九号)の規定の適用については、同法第二条第一項第一号ホに掲げる施設とみなす。
 (上皇后に関する他の法令の適用)
第五条 上皇后に関しては、次に掲げる事項については、皇太后の例による。
一 刑法第二編第三十四章の罪に係る告訴及び検察審査会法の規定による検察審査員の職務
二 前号に掲げる事項のほか、皇室経済法その他の政令で定める法令に定める事項
 (皇位継承後の皇嗣に関する皇室経済法等の適用)
第六条 第二条の規定による皇位の継承に伴い皇嗣となった皇族に対しては、皇室経済法第六条第三項第一号の規定にかかわらず、同条第一項の皇族費のうち年額によるものとして、同項の定額の三倍に相当する額の金額を毎年支出するものとする。この場合において、皇室経済法施行法(昭和二十二年法律第百十三号)第十条の規定の適用については、同条第一項中「第四項」とあるのは、「第四項並びに天皇の退位等に関する皇室典範特例法(平成二十九年法律第  号)附則第六条第一項前段」とする。
2 附則第四条第三項の規定は、第二条の規定による皇位の継承に伴い皇嗣となった皇族の御在所について準用する。
 (贈与税の非課税等)
第七条 第二条の規定により皇位の継承があった場合において皇室経済法第七条の規定により皇位とともに皇嗣が受けた物については、贈与税を課さない。
2 前項の規定により贈与税を課さないこととされた物については、相続税法(昭和二十五年法律第七十三号)第十九条第一項の規定は、適用しない。
 (意見公募手続等の適用除外)
第八条 次に掲げる政令を定める行為については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第六章の規定は、適用しない。
一 第二条の規定による皇位の継承に伴う元号法(昭和五十四年法律第四十三号)第一項の規定に基づく政令
二 附則第四条第一項第二号及び第二項、附則第五条第二号並びに次条の規定に基づく政令
 (政令への委任)
第九条 この法律に定めるもののほか、この法律の施行に関し必要な事項は、政令で定める。
 (国民の祝日に関する法律の一部改正)
第十条 国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)の一部を次のように改正する。
  第二条中「春分の日 春分日 自然をたたえ、生物をいつくしむ。」を「天皇誕生日 二月二十三日 天皇の誕生日を祝う。
 春分の日 春分日 自然をたたえ、生物をいつくしむ。」に改め、「天皇誕生日 十二月二十三日 天皇の誕生日を祝う。」を削る。
 (宮内庁法の一部改正)
第十一条 宮内庁法(昭和二十二年法律第七十号)の一部を次のように改正する。
  附則を附則第一条とし、同条の次に次の二条を加える。
第二条 宮内庁は、第二条各号に掲げる事務のほか、上皇に関する事務をつかさどる。この場合において、内閣府設置法第四条第三項第五十七号の規定の適用については、同号中「第二条」とあるのは、「第二条及び附則第二条第一項前段」とする。
2 第三条第一項の規定にかかわらず、宮内庁に、前項前段の所掌事務を遂行するため、上皇職を置く。
3 上皇職に、上皇侍従長及び上皇侍従次長一人を置く。
4 上皇侍従長の任免は、天皇が認証する。
5 上皇侍従長は、上皇の側近に奉仕し、命を受け、上皇職の事務を掌理する。
6 上皇侍従次長は、命を受け、上皇侍従長を助け、上皇職の事務を整理する。
7 第三条第三項及び第十五条第四項の規定は、上皇職について準用する。
8 上皇侍従長及び上皇侍従次長は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第二条に規定する特別職とする。この場合において、特別職の職員の給与に関する法律(昭和二十四年法律第二百五十二号。以下この項及び次条第六項において「特別職給与法」という。)及び行政機関の職員の定員に関する法律(昭和四十四年法律第三十三号。以下この項及び次条第六項において「定員法」という。)の規定の適用については、特別職給与法第一条第四十二号中「侍従長」とあるのは「侍従長、上皇侍従長」と、同条第七十三号中「の者」とあるのは「の者及び上皇侍従次長」と、特別職給与法別表第一中「式部官長」とあるのは「上皇侍従長及び式部官長」と、定員法第一条第二項第二号中「侍従長」とあるのは「侍従長、上皇侍従長」と、「及び侍従次長」とあるのは「、侍従次長及び上皇侍従次長」とする。
第三条 第三条第一項の規定にかかわらず、宮内庁に、天皇の退位等に関する皇室典範特例法(平成二十九年法律第  号)第二条の規定による皇位の継承に伴い皇嗣となつた皇族に関する事務を遂行するため、皇嗣職を置く。
2 皇嗣職に、皇嗣職大夫を置く。
3 皇嗣職大夫は、命を受け、皇嗣職の事務を掌理する。
4 第三条第三項及び第十五条第四項の規定は、皇嗣職について準用する。
5 第一項の規定により皇嗣職が置かれている間は、東宮職を置かないものとする。
6 皇嗣職大夫は、国家公務員法第二条に規定する特別職とする。この場合において、特別職給与法及び定員法の規定の適用については、特別職給与法第一条第四十二号及び別表第一並びに定員法第一条第二項第二号中「東宮大夫」とあるのは、「皇嗣職大夫」とする。
(平成二十九年六月十六日公布)

〈参考〉
法案提出理由
 皇室典範第四条の規定の特例として、天皇陛下の退位及び皇嗣の即位を実現するとともに、天皇陛下の退位後の地位その他の退位に伴い必要となる事項について所要の措置を講ずる必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。

国会附帯決議
一 政府は、安定的な皇位継承を確保するための諸課題、女性宮家の創設等について、皇族方の御年齢からしても先延ばしすることはできない重要な課題であることに鑑み、本法施行後速やかに、皇族方の御事情等を踏まえ、全体として整合性が取れるよう検討を行い、その結果を、速やかに国会に報告すること。
二 一の報告を受けた場合においては、国会は、安定的な皇位継承を確保するための方策について、「立法府の総意」が取りまとめられるよう検討を行うものとすること。
三 政府は、本法施行に伴い元号を改める場合においては、改元に伴って国民生活に支障が生ずることがないようにするとともに、本法施行に関連するその他の各般の措置の実施に当たっては、広く国民の理解が得られるものとなるよう、万全の配慮を行うこと。
  右決議する。

(参考)神社本庁の基本的姿勢


 今般、「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が制定、公布された。法には、「退位」の語が使用されてゐるが、古くは律令に規定されてゐるやうに、「譲位」といふ語が公式かつ歴史的に用ゐられてきた。その事実を踏まへ、「退位」ではなく「譲位」の語を用ゐることが適切である。此の度、法の施行によって「譲位」が現実のものとなるに際し、左の通り神社本庁の基本的な姿勢を明らかにするものである。

一、皇位の継承は、皇嗣が践祚され祖宗の神器を承ける皇室・国家の重儀であり、皇室典範第二十四条の定める「即位の礼」は、御代替に関する伝統的な諸儀式のすべてを総称するものである。御代替に関する諸儀式については、皇室の伝統を踏まへ、かつ皇室制度上で最も整備された旧登極令等の規定に準拠することを第一に執行されるべきである。

二、長い歴史・伝統に由来する皇位の尊厳性に思ひを致し、即位礼、大嘗祭、大饗等、旧登極令に定められてゐる一連の皇位継承に関はる諸儀式はもとより、旧登極令に定めのない「譲位」に関する儀式についても、皇室の先例を考証し、国家的重儀として執行されるべきである。
七月二十一日

(参考)神道政治連盟会長談話


 「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が成立、公布された。今後は天皇陛下の御譲位に向けての諸準備がなされるものと拝察されるが、御譲位からはじまる皇位継承に関はる諸儀式が、皇室の長い伝統に則り、皇位の重みを尊重して、国の重儀として執り行はれるやう慎重に検討を重ねるべきである。
 本特例法制定に関して何よりも問題視すべきは、衆参両議院の附帯決議に「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」と「女性宮家の創設等」の文言が検討課題として盛り込まれたことである。たしかに附帯決議に法的拘束力はないが、「女性宮家」の創設が優先して検討されるかのやうな報道がなされた。「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」については、法案審議の政府答弁にあるやうに、まづは「男系継承が古来例外なく維持されてきた」重みを踏まへて、皇室の安泰化に向けた方策の検討が望まれる。
 他方、「女性宮家の創設等」については、宮家が、皇位継承権を有する者を当主とする皇族御一家のことを意味してをり、宮家の創設には必ず皇位継承の問題が関はってくることから、皇位継承の課題と切り離されて記載されたものと推察する。
 しかし、野田内閣当時、「女性宮家」について、「皇位継承の問題ではない」と明言してゐたにもかかはらず、同じ語が民進党の主張により「安定的な皇位継承」といふ文脈で盛り込まれたことは看過できない。過去と異なる主張を押し通した民進党の姿勢は言ふに及ばず、国会での十分な検討もなされず決議に盛り込まれたことは誠に遺憾である。このことを十分認識・留意しつつ、これからの議論を進めるべきである。
 なほ、「女性宮家の創設等」については、女性皇族の御結婚によって「皇室活動の安定性」が将来的な問題とされるのであれば、例へば御結婚後であっても、皇族身分であった者としてその後も皇室活動に協力することが出来る方途など検討すべきである。
以上