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論説 被害者等の心情を踏まへて 教誨師研究会

令和8年10月19日付 2面

 今号掲載の通り、第七十五回神社本庁教誨師研究会が十月六・七の二日間に亙り、徳島・大麻比古神社などを会場に開催された。
 日程中、初日は被害者支援弁護士フォーラム事務局長を務める髙橋正人氏による講演ののち、分散会で講演の感想をはじめ、それぞれの教誨活動や所属施設の状況などについて意見を交換。二日目には全体会で分散会の討議内容を共有したほか、閉会式後には徳島刑務所の施設参観もおこなはれた。
 研究会の成果を踏まへ、神社神道に基づく宗教教誨のさらなる充実が図られることを切に望むものである。

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 わが国の矯正制度をめぐっては、令和四年六月十三日に「刑法等の一部を改正する法律」が成立。この法改正により、昨年六月一日には懲役と禁錮に替はる新たな刑として拘禁刑が創設され、個々の受刑者の特性に応じて改善更生・再犯防止のために必要な作業をおこなはせ、または必要な指導をおこなふことが可能となった。加へて、これに先立つ令和五年十二月一日からは同じくその法改正に基づき、被害者や遺族の心情等を加害者に伝達し、その矯正処遇等に直接反映させる「刑の執行段階等における被害者等の心情等の聴取・伝達制度」も導入されてゐる。
 「道義的な責任の自覚と教誨」を主題とする今回の研究会は、この新たな制度に着目。「凶悪犯罪の被害者遺族は改善更生を望んでいるか?」と題する髙橋氏の講演を通じ、被害者がこの制度の運用において何を求めてゐるのか、被収容者の改善更生を如何に考へるのかといったことなどを踏まへつつ、教誨師自身が被害者心情を理解し、求められる教誨、そして更生とは何かを改めて見つめ直す機会とした。
 被害者や遺族が加害者に対してどのやうな心情を持つのか、そもそも加害者の改善更生を望んでゐるのか。今回の研究会は、教誨師にとってもその存在意義を問はれるやうな、極めて重い内容を含むものだったといへよう。

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 講演のなかで髙橋氏は、被害者支援に携はってきた経験に基づき、被害者・遺族の心情について具体例を挙げながら紹介。とくに凶悪犯罪の被害者の思ひについては、加害者が改善更生して幸せな人生を送ることを願ってゐるわけではなく、あくまで死刑を望んでゐることを強調した。その上で、凶悪犯罪の加害者が必ずしも死刑にはならないといふ現実と折り合ひをつける方途として、加害者には罪を犯した経験を踏まへ、自分と同じやうな犯罪者が生まれないやう啓発活動をおこなってほしいとの思ひを述べた。
 髙橋氏が触れた死刑制度に関しては、内閣府が令和六年に実施した「基本的法制度に関する世論調査」において、八三・一%が「やむを得ない」と回答し、「廃止すべき」との回答は一六・五%に留まる。「やむを得ない」理由としては被害者感情への配慮をはじめ、命をもって償ふべきといふ考へや凶悪犯罪の増加・再犯への危惧などがあり、一方の「廃止すべき」理由として、近年は冤罪への懸念が目立つやうだ。また日本弁護士連合会では、「被害者遺族の心情はさまざまであり、『遺族は犯人の死刑を望むものだ』といった一様な決めつけは避けるべき」などとして死刑廃止を訴へてきた。
 かうした凶悪犯罪と死刑制度をめぐる相反する意見に加へ、「被害に遭ってゐない人には被害者・遺族の気持ちは分からない」「一括りに加害者といっても犯罪の種類によってまったく違ふ」などといった髙橋氏の指摘も重要なものとして受け止めておきたい。

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 凶悪犯罪の被害者や遺族の心情と、加害者である受刑者の改善更生、ひいてはその社会復帰・再犯防止との兼ね合ひなどについては、決して簡単に結論が出るものではなく、その答へは必ずしも一つではないのかも知れない。また、助言者として全体会に出席した公益財団法人全国教誨師連盟事務長の谷澤正次氏が述べたやうに、教誨師には被害者・加害者の双方の感情に対するバランス感覚が必要であり、さらに被害者心情を伝達する施設担当官の心理的ケアなども求められるといふ。
 法改正にともなふ環境変化のなかで、教誨師の役割はいよいよ増してゐるといへよう。かねて懸案となってゐる後継者養成とともに、さらなる研鑽・活躍を大いに期待するものである。
令和八年十月十九日

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