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杜に想ふ 和の生き方 山谷えり子

令和7年10月06日付 5面

 澄んだ空気の中、夕映えの雲の美しさに時のたつのを忘れてしまふ。
 大阪・関西万博もいよいよ十月十三日までとなった。百五十八の国と地域が参加した会場は連日各国や国際機関の「ナショナルデー」や「スペシャルデー」が開催され、外交団やビジネス交流が活溌におこなはれ、民間の人々のデモンストレーションも加はって万博閉幕後も万博外交の成果が期待されてゐる。
 私は、先月参議院日仏友好議員連盟会長としてフランスのナショナルデーに出席した。フランスから大臣や国会議員、民間関係者らが参列した式典では交流の歴史と未来があつく語られた。
 フランスパビリオン名誉親善大使として来日されたのは柔道家のテディ・リネールさん。フランスの柔道人口は五十三万人といはれ日本の四倍以上で、とくに親世代が子供に柔道を通して礼節と集中力を学ばせたいとして人気があるといふ。リネールさんは十八歳で史上最年少の世界王者となり、世界選手権を十一度制覇。オリンピックではロンドン、リオデジャネイロ、東京、パリと金メダルを獲ってゐる。食事をしながらゆっくり話せたので「何故柔道を?」とたづねると、水泳、ゴルフ、バスケットボール、サッカーと多くのスポーツを体験したが、柔道はスポーツではなく“生き方”であるところに魅かれたといふ答へが返ってきた。デモンストレーションもあったので見学すると、嘉納治五郎の写真とともに“精力善用”の言葉が掲げられ、お稽古をしてゐる子供たちを前にフランス人の解説者が「フランスでは柔道をすることで礼節、自律心、友情、尊敬、謙虚の五つの徳目を学んでほしいと伝へてゐます」と語る姿に嬉しくなった。
 日華議員懇談会の副幹事長でもある私は、国としてパビリオンを出せない台湾がテックワールドとして出展した場にも訪れた。「生命」「未来」「自然」の三部屋を、機能つき腕時計をはめて入ると、半導体技術により脈拍などが時計に記憶され、何に感動したかが分析される仕組みとなってゐた。私は「生命」の部屋で最も感動してゐたと分析され、台湾のおすすめ旅行プランまで提示された。さすが半導体先進地域らしいとうなってしまった。現在、日仏台は安全保障とサイバーの面でも交流が密になってゐる。
 「多様でありながら、ひとつ」のシンボル大屋根リングは一部をレガシーとして残す計画といふ。各国の持ち味をつなぎながら今後とも万博外交を継承していきたい。
 行きすぎた個人主義や権利の主張が対立や分断を生んでゐる国際情勢だが、日本は和の国。この十月四日誕生の新総裁のもと、明るい船出をなしとげたい。前進のエネルギーは国民一人一人の力と祈りであらう。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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