論説
神宮大麻暦頒布始祭 新たな活動展開に向けて
令和7年09月22日付
2面
今号掲載の通り、九月十一日に伊勢の神宮で神宮大麻暦頒布始祭が斎行され、神宮大麻・暦が久邇朝尊神宮大宮司から鷹司尚武神社本庁統理へと授けられた。
今年は第六十三回神宮式年遷宮の諸祭との兼ね合ひなどから例年より一週間ほど日程を早め、神宮参与同評議員会・伊勢神宮崇敬会代議員会合同会議に引き続いての開催となってゐる。五月の山口祭・木本祭を嚆矢として遷宮諸祭が始まり、いよいよ本格的な奉賛活動も近づく。神宮大麻・暦の頒布数は減少傾向が続いてゐるが、遷宮奉賛に向けた活動展開のなかで、その相乗効果による増頒布にも期待したい。
○ 頒布始祭斎行後には表彰式・秋季推進会議が開催され、前年度の神宮大麻・暦の頒布数や今年度の神宮大麻頒布向上施策実施要綱についての説明などがあった。
このうち前年度の神宮大麻の頒布数については、すでに三月の春季推進会議で報告のあった通り、前年度比九万五千六百四体減の七百九十四万二千八百四十八体となってゐる。顧みれば神宮大麻の全国頒布は明治五年に始まり、終戦前年の昭和十九年には千三百三十四万九千五百十一体を頒布。敗戦の混乱などにより一時は五百万体ほどにまで減体したが、その後は戦後復興・高度経済成長のなかで増体傾向が続いた。しかしながら、平成六年の九百五十三万二千六百四十九体をピークとして減体傾向に転じ、前年度は約五十年ぶりに八百万体を下回ってゐる。
さうしたなかで策定された今年度の神宮大麻頒布向上施策実施要綱は、式年遷宮の諸祭・諸行事が順次始まるなか、神宮奉賛の心を育むためにも神宮と国民との絆である神宮大麻の奉斎を中心に家庭祭祀の振興を図るべく諸施策を推進することが趣旨。「氏子区域の実態把握」と「頒布奉仕者の意識向上」を重要課題とし、式年遷宮にかかる広報をおこなふに際しては、神宮の真姿顕現や神宮大麻奉斎の意義についての啓発も検討することが盛り込まれてゐる。
氏子意識の稀薄化をはじめ、長引く経済低迷や物価高騰など厳しい社会環境のなか、神宮大麻頒布に携はる頒布奉仕者の労苦は想像に余りある。神宮大麻頒布をめぐる現状と課題について、関係者がさらに理解を深め、問題意識を共有することが必要だらう。
○ をりしも、神社本庁では第三回「『伊勢神宮』に関する意識調査」の報告書を刊行した。同書には各調査項目についての解説や結果一覧に加へ、國學院大學・石井研士名誉教授のコラム、鈴鹿大学・川又俊則教授と皇學館大学・板井正斉教授による結果分析が掲載されてゐる。
このうち川又教授は自らの師にあたる社会学者・森岡清美がかつて、核家族化により世帯数が増加するなかでの神宮大麻頒布に関し、「世帯総数は激増しても、大麻頒布数はあまり伸びていない。そこで頒布率はかえって急落するということになったのである」(『現代社会の民衆と宗教』、昭和五十年、評論社刊)と指摘してゐたことを紹介。森岡の指摘から五十年を経た今、その核家族さへ減少し、単独世帯が増加してゐることなどにも言及してゐる。
この頒布率に関して神社本庁では、例年「月刊若木」一月号附録「神社庁・全国神社総代会・指定団体の活動概況」において、全国と各都道府県の数値を千分率で明示してきた。報告書の解説のなかで、調査結果をいかに評価し、どのやうな意味を見出すにしても、新たな活動展開に向けた検討課題とすることの大切さが述べられてゐるやうに、これまでの統計や調査などに基づく現状の確認も重要だらう。
○ もちろん、すでに百五十年を超えた神宮大麻全国頒布の歴史のなかでは、頒布にかかる制度や組織に変遷が見られ、また神宮・神社をめぐる社会環境や国民意識の変容、さらにはそれぞれの地域における条件・事情などから、数字の一部を切り取って単純に比較できないやうな面もある。
まづ以て神宮大麻の頒布をめぐるさまざまな変遷・変容、各地の条件・事情などを含めた現状を把握したい。その上で、目前に迫った式年遷宮の奉賛活動を見据ゑつつ、新たな活動展開に向けた検討を始めることが求められてゐるのではなからうか。
令和七年九月二十二日
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