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杜に想ふ 国宝 山谷えり子

令和7年09月01日付 5面

 酷暑が続く。稲や他の農作物の収穫がどうか豊かでありますやうに。
 自民党は七月の参議院議員選挙の結果を受け、厳しい状況のなかを歩き続けてゐる。グローバリズム、リベラリズム、ポピュリズムの波のなかで日本らしい輝きをもつ政治をいかに作るか、時代の変化に適応するダイナミズムと柔軟性をもってあたりたい。
 この夏は戦後八十年の祈りのなかで、改めて民族の霊的生命力に思ひをめぐらす夏でもあった。今年は自民党立党七十年でもあるが、昭和三十五年の党大会で承認された基本文書を読み返すと、「保守主義は、また政治権力の限界を自覚するものである。政治の限界を理解することが政治的叡智獲得の芽生えであり、われわれが政治権力の外にあるべき宗教・道徳・慣習・学問・芸術を尊重するゆえんも実にここにある」とある。美しい言葉、礼節の国がらが失はれつつあるかに見えるが、高みを目指し復原力をとり戻す仕事をコツコツとやっていくつもりである。
 さて、未来を作る力は、教育や文化のなかにある。教育においては、全国学力・学習状況調査の結果分析がこの夏に文科省から発表され、担当者と課題を話し合ってゐる。私が最も気になるのは中学の国語で、文章の構成や展開について、根拠を明確にして考へる記述問題において無回答が約三割あったことであった。SNSなどでの短文のやり取りが日常のためか、拾ひ読みや好みの文しか頭に入らなくなってしまってゐるためなのだらうか。スマホとテレビゲームで過ごす時間もこの三年で四十二分間増えて一日あたり三時間四十四分となってゐる。家庭教育に期待するのが難しい現実のなかで、学校教育は読み書きをもっと重視していかねばならない。
 さうしたなかで、今夏、歌舞伎を題材にした映画「国宝」が異例の大ヒット。本物の歌舞伎を見る若者が増加しはじめたといふニュースには嬉しさを感じてゐる。吉沢亮と横浜流星といふ歌舞伎役者ではない二大スターが、中村鴈治郎さんの指導のもと「二人藤娘」や「二人道成寺」「曽根崎心中」をみごとに演じきってゐる。芸の道に精進する姿、人間の業を描ききる歌舞伎の深さのなかで、日本文化の味はひに約三時間ひたりきらせる大作は日本アカデミー賞はもちろんのこと、米国アカデミー賞も受賞するにふさはしい作品と思はれた。
 いはゆる「人間国宝」とは文化財保護法に基づいて文科大臣が指定した重要無形文化財の各個認定の保持者の通称で、直近の答申により芸能や工芸部門など百十人がおいでとなる。私は自民党の文化関係の会長をつとめた関係で多くの人間国宝の方々の人格や作品に触れさせていただいてゐるが、その精進のお姿や作品は、日本を日本たらしめる品格、霊性を感じずにはゐられない。かうした文化に若い人々が触れることは、輝く未来を作るひとつの力になるだらう。
(参議院議員、神道政治連盟国会議員懇談会副幹事長)

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