論説
防災の日 自治体・地域社会と連携を
令和7年09月01日付
2面
今号発行日の九月一日は「防災の日」にあたる。
「防災の日」は、「政府、地方公共団体等防災関係諸機関をはじめ、広く国民が、台風、豪雨、豪雪、洪水、高潮、地震、津波等の災害についての認識を深めるとともに、これに対する備えを充実強化することにより、災害の未然防止と被害の軽減に資する」ことを目的に設けられた。この九月一日は大正十二年に関東大震災が発生した日で、また雑節の一つ「二百十日」の頃にあたり、台風被害が懸念される時期でもある。昭和三十四年九月二十六日の伊勢湾台風により甚大な被害が齎されたことを契機に、翌三十五年に閣議了解により「防災の日」が創設され、その後、同五十七年にはこの日を含む一週間を「防災週間」とすることとあはせ、改めて閣議了解がなされて現在に至ってゐる。
「防災の日」に際し、改めて自然災害についての認識を深めるとともに、備へを充実強化することにより、未然防止と被害軽減に努めたいものである。
○ 振り返れば昨年は、「防災の日」を前にした八月八日に九州・日向灘を震源とするマグニチュード七・一の地震が発生し、気象庁が初の南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」を発表。海水浴場の閉鎖、花火大会の中止、鉄道の運休、飲料水・食料品の買ひ占めなど少なからず混乱も生じた。
この南海トラフ地震臨時情報に関して内閣府はこのほど、昨年の「巨大地震注意」よりも切迫性のある「巨大地震警戒」が発表された場合に自治体が事前避難を求める対象者について、全国で五十二万人に及ぶといふ調査結果を公表。昨年の状況などに鑑みても十分な周知や準備が重要とならうが、避難対象となる地域の指定をめぐる対応には自治体によって差異があり、その原因として職員の人手不足が挙げられてゐるといふ。
自然災害に際しては、かねて国や自治体の取組みに基づく「公助」に加へ、一人一人が取り組む「自助」や地域社会などにおける「共助」の大切さが指摘されてきた。国や自治体の取組みを踏まへつつ、地域社会を基盤とする神社として、この「共助」において果たすべき役割を改めて考へておくことも必要だらう。
○ 神社本庁では例年、さうした自然災害を見据ゑた事前対策の検討などを促すべく、各都道府県神社庁長宛に「自然災害への取組みについて」の通知を発出。今年五月二十七日付の通知では「事前検討事項」を例示した部分において、新たに「隣接神社庁との連携、地域との連携、行政との災害に関する協定等の策定」が加へられた。
これと軌を一にするやうに内閣府では六月二十日、各都道府県の防災担当者宛に事務連絡「宗教法人との災害時支援協定や避難所としての宗教施設等の活用の検討のお願い」を発出。大規模災害時に指定避難所の量的確保を図る観点などから、宗教法人と連携して被災者を支援することや、避難所の確保において宗教施設等の活用を検討し、必要に応じて宗教法人に相談することについて対応・周知などを求めてゐる。
平成二十三年の東日本大震災においては、避難所としての機能を果たした神社も見られた。さうしたことも踏まへ、近年は自治体や警察・消防などが神社と災害時の協定を締結するやうな事例が増加。東京都宗教連盟でも四月二十八日に東京都と「東京の防災力の向上のための連携協力に関する協定」を締結したところだ。もちろん各神社の状況によって対応は異なるのだらうが、神社の歴史的な公共性・公益性に鑑みつつ、可能な範囲で自治体などとの連携・協力を検討したい。
○ もとより神社における第一義、神職の使命は祭祀厳修にある。その意味では、災害に見舞はれることのないやう日々地域の安寧を祈り、また被災者や復興に尽力する人々にとっての祈りの場、心の拠り所となるやう努めることが求められるのはいふまでもない。
「防災の日」にあたり、神道の自然観や古来の信仰を踏まへ、さらには神社と地域社会との関係性なども顧みながら、防災・減災に向けた取組みの大切さを再確認したい。さうした取組みが神社と地域社会との結び付きをさらに強め、それぞれの振興にも繋がっていくことを信じるものである。
令和七年九月一日
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