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論説 第一回遷宮委員会 決意新たに万全の準備を

令和7年08月18日付 2面

 前号掲載の通り、第六十三回神宮式年遷宮委員会の第一回会合が七月二十八日に都内で開催された。
 同委員会は、「神宮大宮司の諮問に応じて、第六十三回神宮式年遷宮の御準備に関する重要事項について調査協議し、これに関する事項について神宮大宮司に意見を具申する」審議機関。神宮崇敬者、学識経験者及び神宮職員など斯界関係者を含めた三十三人の委員で構成されてゐる。
 今回の議事では、「御準備の経過」「奉賛会の設立」「今後の予定」などについて説明・報告があった。同委員会による重要事項の調査協議のもと、式年遷宮の完遂に向けてその御準備が順調に執り進められることを祈念したい。


 会合における議事のなかで「御準備の経過」に関しては、遷宮諸祭と諸行事、御装束神宝、御造営、遷宮費試算についてそれぞれ説明があった。
 とくに斯界における今後の具体的な奉賛活動とも関はる遷宮費については、総額約五百七十七億円で、このうち約百九十億円が募財になるといふ試算が提示されてゐる。
 昨今はさまざまな経費が高騰するなど二十年前とは異なる状況もあり単純には比較できないが、前回の第六十二回式年遷宮においては試算総額五百五十億円の遷宮費のうち、中央募金の七十五億円と地区募金の百四十五億円の合計二百二十億円が募財とされた。
 また、この募財のための組織として「奉賛会の設立」について説明があったが、すでに四月に設立準備室が開設されてをり、平成二十年の公益法人制度改革後としては初めての奉賛会設立となることから、慎重に準備が進められてゐるといふ。前回は神宮式年遷宮委員会の第一回会合の後、その年末には奉賛会の設立発起人会(設立総会)を開催。翌年四月には文部科学大臣から正式に財団法人としての設立認可を受けた上で、翌月の三重県本部を嚆矢として約一年半の間に全国各都道府県において奉賛会地区本部が順次設立されてゐる。
 いよいよ始まる募財活動を見据ゑつつ、遷宮奉賛に向けた取組みについて遺漏なく準備を進めたい。


 この式年遷宮の募財活動は斯界にとって大きな任務の一つといへるが、もちろんそれだけが遷宮奉賛ではないだらう。今回の会合冒頭、久邇朝尊神宮大宮司が式年遷宮について「国家民族の一大祭典」と述べたやうに、もとより神宮は単なる東海地方の著名な観光名所の一つではなく、その式年遷宮は一宗教法人による内輪の宗教行事などではない。
 前回の式年遷宮に際しては、御準備が進むなかで次第に神宮の参拝者数が増加。内外両宮の遷御の儀が執りおこなはれた平成二十五年には、明治二十八年の統計開始以降で最多となる千四百二十万人が参拝してゐる。その数は令和元年の九百七十三万人の後、疫禍の影響により同二年は五百五十四万人、同三年は三百八十三万人に落ち込んだものの、昨年は七百五十四万人にまで恢復した。さうしたことを見ても、国民が神宮に対して極めて大きな関心を寄せ続けてゐることは疑ひない。
 今後、募財活動の開始にともなって広報や啓発の取組みなども本格化することとなる。さうしたなかで国民の神宮に対する関心を前提に、皇室への敬仰・敬慕をともなふ確乎たる神宮崇敬の念の滲透や式年遷宮の意義の周知、そして神宮の真姿顕現の啓発に努めていくやうなことも遷宮奉賛の一環として重要なことであらう。


 第六十三回神宮式年遷宮委員会の第一回会合にあたり、まづは遷宮完遂に向けた決意を新たにしたい。また遷宮費の総額や募財額が提示され、奉賛会の設立準備が進められるなか、各都道府県における地区本部設立の日程を視野に入れながら、具体的な奉賛活動の推進に向けて万全を期していきたいものである。
 かねて物価高騰が課題となるなかで、募財活動には少なからず困難をともなふことが予想される。さうした時であればこそ、皇室との関はりや従来の公的性格をはじめ、神宮とそこで続けられてきた式年遷宮について、しっかりと説明していくことが求められよう。それが今後の募財活動の成果、さらには遷宮完遂に繋がっていくことを信じるものである。
令和七年八月十八日

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