杜に想ふ
常磐の学び舎 涼恵
令和7年07月21日付
5面
今年の四月末、國學院大學渋谷キャンパス内の新たな神殿が竣功した。明治神宮より譲り受けた御仮殿の材を用ゐ、創立百四十周年記念事業の一環として再建されたといふ。主祭神には天照大御神をお祀りし、天神地祇八百万の神々をお迎へして、年間二十以上の恒例祭が斎行されてゐる。
竣功までの間は、真榊を立てた遙拝所が設けられ、途切れることなく参拝できるやう配慮されてゐたことが印象的だった。青々とした真榊は原始的な信仰の在り方を伝へてゐた。
私が國學院大學を初めて訪れたのは二十五年以上前、神職養成講習会に参加した時。なにより驚いたのは、大学内に神殿があり、教員や学生がそこに一礼して登校してゐる光景だった。素通りする学生たちもゐるなかで、静かに頭を下げる姿は凛として格好良く、ハッとするやうな清々しさを感じた。誰かを敬ふ姿勢とはこんなにも美しいものなのかと胸を打たれた。
酷暑のなかでおこなはれた講習会では、毎日汗だくになりながら朝拝夕拝を重ね、神職になることへの覚悟を深めていった。一カ月とは思へないほど濃密な学びと体験は今でも宝物である。とくに現名誉教授の茂木貞純先生には、授業後に何度となく質問をさせていただいたのだが、嫌な顔一つせずに、毎回懇切丁寧に御指導賜った。授業内容はもちろん、その穏やかな口調と立ち居振舞ひからも神道の本質を学ばせていただき、感謝が尽きない。また、祭式の授業では小野和輝先生、和伸先生の親子から直接教へを受けたことも幸運なことで、かけがへのない経験だった。
当時の校舎は今の洗煉された佇まひとはまた違って中庭にある円形の噴水が特徴的な、都会の中心にありながらも、どこか田舎の懐かしさが漂ってゐた。
國學院大學の母体は、明治十五年創設の皇典講究所。有栖川宮幟仁親王による告諭では、日本の「国柄」を明らかにし、「人柄」を育むことが重要であると示されてゐる。
学生たちが作法や舞、雅楽を学ぶ伝統ある「瑞玉會」や「青葉雅楽会」の存在はなんとも頼もしい。神殿の清掃や祭儀の補助に尽力し、神職の道を志す若者たちの学びの場であり続けてゐる。全国の神社では瑞玉會OBの方々が活躍されてをり、その美しい祭式の所作や同志との絆に憧れと尊敬の念を抱いてゐる。
今でもその志が、世代を超えて脈々と受け継がれてゐることに、心からの敬意を抱く。
これからもこの学び舎は、このたび新たに竣功した神殿とともに、訪れる者の背筋を正し、神職としての原点を思ひ出させ、神道の本質を伝へ続けて、神社界の未来を担ふ若者たちの拠り所として、堅磐に常磐に鎮まり続けてゆくのだらう。
今日も誰かが風わたる神域に足を止めて頭を垂れてゐる。
(歌手、兵庫・小野八幡神社権禰宜)
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