文字サイズ 大小

論説 全国教化会議を前に 慰霊・顕彰を国民の務めとし

令和7年11月24日付 2面

 「英霊顕彰の実践的教化手法について」を主題とする令和七年度全国教化会議が、今月末の十一月二十七・二十八の両日に亙り開催される予定だ。
 終戦八十年を迎へた今年、神社本庁では靖國神社・護国神社への参拝勧奨運動を推進してきた。さうしたなか、英霊祭祀の永続に向けて、英霊顕彰事業を積極的に推進し、氏子・崇敬者を教化して、さらには国民意識を喚起していくことが我々神職にとって重要との認識から今回の会議を企画。とくに神職一人でも実践可能な講話に着目し、英霊顕彰の方途を研究することを目的とする。また今年度は三カ年継続の教化実践目標の最終年度にあたることから、これまでの活動を振り返り、相互点検・課題等の抽出・情報共有の上で、次期の教化実践目標策定に向けた検討もおこなふといふ。
 今後の英霊顕彰事業の推進、新たな教化実践目標の策定に向けて、有意義な会議となることを望むものである。


 今回の教化会議では、初日に野口次郎氏と板井正斉氏による基調講演がおこなはれる。
 このうち野口氏は靖國神社の元職員で、宮城・志波彦神社鹽竈神社に転任後は神社本庁教誨師や警察学校の講師なども務め、英霊に関する講話・講義をおこなってきた。さうした経験に基づき、昨年八月には著書『戦時青年、ただに讃へむ―心やさしき勇者の物語に、心震わす警察学校生たち―』を刊行。今年九月に北海道で開催された神社本庁教誨師研究会でも「戦没者の記録に涙する被収容者たち」と題して講演してゐる。
 戦争を直接知る世代の減少が指摘されるなか、野口氏も戦後生まれではあるが、靖國神社における貴重な奉仕経験が講話・講義に活かされたのであらう。もとより靖國神社や護国神社の職員に限らず、英霊の慰霊・顕彰に努めることは重要である。今回の教化会議について、講話を通じた英霊顕彰の実践的教化手法を学ぶ機会とするとともに、さらには教化活動における講話の意義の再確認などにも繋げたい。


 今年は、七月の神社本庁神道教学研究大会も「英霊祭祀のいまとこれから―戦後八十年を迎へての教学的課題―」を主題に開催され、英霊祭祀の永続性について考察するとともに、その教学的位置付けなどを確認した。
 この教化と教学といふことについては、かねて医学における臨床と基礎との関係に喩へられてきた。教学研究には例へば先にも触れた教誨師による活動などを含め、教化といふ実践活動の基盤・源泉としての役割があり、その成果に基づきながら、それぞれの現場において教化活動の推進が図られる。さうした意味では、終戦八十年といふ節目にあたり教学研究大会と教化会議、さらには教化の一環といへる教誨活動に係る研究会が同様の講師、類似の主題となるのはむしろ自然なことで、そのやうな関係性を踏まへて、かつて教学研究大会と教化会議とが連続して開催されてゐた時期もあった。
 それぞれの会議・研究会の出席者や担当者による情報共有のもと、教化・教学におけるさらなる連携が重要とならう。今後、さうした方途についても改めて検討を進めたいものである。


 今や国民の九割近くが戦後生まれとなった。戦歿者を直接知る国民は少なくなり、遺族会などが会員減少により解散するとの事例も聞かれる。
 さうした状況にあって靖國神社の大塚海夫宮司は、特定の祭神への「思慕」から英霊への尊崇といふ「理念」へと「参拝の属性の変化」が進んでゐるとの考へを提示。変化への対応の必要性を指摘しつつ、過去・現在・未来を繋ぐ「平和の社」としての同神社の役割を強調する。また各地の護国神社においても状況・環境がさまざまに異なるなかで、それぞれ対応を図ってきた。
 わが国の平和と安寧の礎となった英霊たち。これまで戦友や近親の遺族が中心だったその慰霊・顕彰について、改めて国民全体の務めとして認識していくことが求められよう。終戦八十年の今年も残すところあと一カ月余り。英霊の慰霊・顕彰、その祭祀をいかに継承していくのかは、さうした節目の年に限らず常に考へていくべき課題である。今回の教化会議にあたり、終戦八十年の節目を一つの契機に、さらには終戦百年を見据ゑつつ、活溌な議論が交はされることを期待したい。
令和七年十一月二十四日

オピニオン 一覧

>>> カテゴリー記事一覧