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論説 維持・管理と今後の可能性 鎮守の杜

令和8年08月03日付 10面

 暑中特別号にあたる今号、二面・三面には鎮守の杜に関する論攷などが特輯的に掲載されてゐる。
 そこで触れられてゐるやうに環境省は令和五年から、民間等の活動により生物多様性の保全が図られてゐる場所を「自然共生サイト」として認定する取組みを開始。すでに複数の鎮守の杜が認定されてゐる。その一方で、近年は街路樹や公園における樹木の倒木が課題となってをり、先日もサッカーグラウンドでの倒木により七人が重軽傷を負ふ事故があったばかりだ。鎮守の杜においても倒木の被害はあり、今年もすでに複数の神社での事例が報じられてゐる。
 「自然共生サイト」としての認定と倒木被害のいづれにおいても、鎮守の杜の維持・管理といふことが重要とならう。さうした昨今の状況も踏まへつつ、鎮守の杜の今後のあり方や可能性について考へていきたい。


 国土交通省では、倒木や落枝による事故が全国的に発生してゐる昨今の状況を踏まへ、昨年九月から「街路樹点検の実施促進のためのガイドラインに関する検討会」を開催。今年三月には、街路樹の点検・診断の効率化・重点化についての考へ方を纏めたガイドラインを公表してをり、その検討会の委員長を務めたのが今号掲載「樹木の維持管理について」を筆者した濱野周泰氏だった。
 かつて斯界において、境内樹木の倒木・枝折れによる事故・災害を未然に防ぐため「境内樹木安全点検手順書」を作成した神社庁があったが、国交省の検討会が纏めた街路樹点検のガイドラインなども、鎮守の杜の維持・管理の方途を検討していく上で良い参考とならう。また、そのやうな点検・診断などに加へ、近年は境内の樹木をはじめとする自然環境の恢復のため、土中に滲透層を作って空気と水の循環を促すやうな取組みや、同じく土中環境改善による参道の木々の樹勢恢復を図る事業など、広く外部の協力を仰ぎながら新たな活動を始めた神社も見られる。
 生物多様性を保全する場として「自然共生サイト」に認定されるやうな場合を含め、平素からの点検・診断による事故等の未然防止、さらには参道を含めた境内の自然環境の恢復・改善など、引き続き鎮守の杜の維持・管理に努めたいものである。


 最高気温が四十度以上の日の名称について、気象庁が「酷暑日」とすることを決めた今年。七月末から各地で酷暑日が続き、熱中症による救急搬送の増加が課題となってゐる。
 さうしたなかで注目したいのが、樹木による木陰が一定範囲の地面をどの程度覆ってゐるのかを示す「樹冠被覆率」だ。欧米などでは温暖化やヒートアイランド現象への対策において一つの指標として活用されてゐるものの、わが国では未だあまり滲透してゐない。さうしたなか、東京大学の研究チームが実施した調査により、近年は東京二十三区内の樹冠被覆率が減少傾向にあることが明らかになったといふ。
 鬱蒼とした鎮守の杜で感じる清々しさ、涼風渡る緑陰の心地良さは、神社関係者であれば多くが体験的に知るところであらう。鎮守の杜が直射日光を遮り、穏やかな木漏れ日が射し込む境内は、祈りの場であるとともに憩ひの場でもあり、とくにこれからの時期は子供たちを対象とした緑陰教室や林間学校で賑はふこととなる。
 酷暑日が続くなかで樹冠被覆率といふ指標への関心が昂り、鎮守の杜の多様な価値がより広く再認識されるきっかけになることを期待したい。


 もちろん鎮守の杜といっても、伊勢の神宮において大正十二年に策定された神宮森林経営計画に基づき育まれてきた宮域林や、全国からの献木と青年たちの勤労奉仕によって作られた明治神宮の百年の杜、昆虫等の貴重な棲処となってゐる都会の杜のほか、枯損木の伐採費捻出にも苦慮するやうな兼務社の杜など、それぞれの神社によって規模や状況は大いに異なる。
 国主導のもと、「自然共生サイト」の認定をはじめ「ネイチャーポジティブ」(自然再興)への取組みが進められる今こそ、自然との共生に象徴されるやうな神道の自然観を啓発していきたい。そのためにも、斯界を挙げて鎮守の杜の維持・管理に努めつつ、その役割や今後の可能性について改めて訴へていきたいものである。
令和八年八月三日

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