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論説 精神性・信仰の再確認も 生活文化の文化財答申

令和8年11月02日付 2面

 文化審議会は十月十六日、重要無形文化財の指定及び保持者の認定について文部科学大臣に答申した。
 この答申は、重要無形文化財として「立花」「吟醸造り」「京料理(会席)」の三件を指定するとともに、その保持者(通称「人間国宝」)として三氏を認定するもの。重要無形文化財の指定、その保持者の認定については、これまで「芸能」と「工芸技術」の二つの分野が設けられ、「芸能」においては雅楽・能楽・歌舞伎などが、「工芸技術」においては陶芸・染織・漆芸などが、それぞれ対象とされてきた。
 今回は新たに設けられた「生活文化」(茶道、華道、書道、食文化その他の生活に係る文化のうち、無形の文化的所産)の分野における初めての指定・認定となる。わが国の歴史のなかで継承されてきた伝統の「わざ」である無形文化財。「生活文化」の分野においても、その円滑な保護・継承が図られていくことを切に望むものである。

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 この「生活文化」の分野における無形文化財に関しては、令和三年の文化財保護法改正に基づき新設された登録制度により、すでに「伝統的酒造り」「手揉み製茶」「書道」「京料理」「菓銘をもつ生菓子(煉切・こなし)」「華道」「加賀料理」の七件が登録されてゐる。
 さうしたなか文化審議会は昨年十月、無形文化財の登録制度の新設により幅広く緩やかな保護・継承を図ってきた過程において、「学術的調査の積み重ねにより、いくつかの案件について、特定の個人又は団体が有する特に優れたわざに関し、国による強い支援が必要と思われるケースも散見されるようになってきた」として、さらに重要無形文化財の制度を導入すべく、その指定並びに保持者及び保持団体の認定に関する基準を提示。指定基準としては「芸術上特に価値の高いもの」「生活文化に係る歴史上特に重要な地位を占めるもの」などを、認定基準としては「重要無形文化財に指定される生活文化を高度に体得している者」「生活文化を正しく体得し、かつ、これに精通している者」などを挙げてゐた。
 それから一年を経て、このほど新制度のもとで具体的に三件の指定、三氏の認定が答申された。文字通り形のない無形の文化財の保護・継承には独得の難しさが付きまとふ。今後とも適切な制度運用・施策充実が求められよう。

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 新たに重要無形文化財となる「立花」「吟醸造り」「京料理(会席)」のうち、「吟醸造り」は「手間と原料を惜しむことなく投入することで耽美的な味と香りを追求した酒(吟醸酒)を製造するわざ」であり、「芸術上特に価値が高く、かつ、生活文化に係る歴史上特に重要な地位を占めるもの」とされてゐる。また、その保持者に認定される農口尚彦氏は、吟醸造りの「わざ」を高度に体得し、伝統的な酒造りの分野を代表する杜氏の一人として高く評価されてをり、後進の指導・育成にも尽力してきたといふ。
 ただ日本酒造杜氏組合連合会によれば、昭和三十八年には三千百七十三人を数へた所属杜氏が、令和五年には七百十四人にまで減少。近年は「伝統的酒造り」のユネスコ無形文化遺産登録(令和六年)や海外を含めた日本酒ブームなど、関心の昂りなどもあるやうだが、後進の指導・育成は決して容易なことではなささうだ。
 今回の重要無形文化財指定、とくに人間国宝認定の答申が、すでに杜氏として活躍してゐる人々の誇りに、さらには若者たちがこれから杜氏を目指す動機付けに繋がっていくやうなことも期待したい。

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 神前に奉献する神饌の一つとして酒が欠かせない斯界にとっても、かうした酒造りの「わざ」の保護・継承が重要であることはいふまでもない。『酒と日本文化』などの著作がある民俗学者・神崎宣武氏はかねて本紙「杜に想ふ」欄において、たびたび「御神酒あがらぬ神はなし」との文言を紹介。酒と神祀りとの深い関はりに触れながら、貴重な白い米をふんだんに使ひ、多くの手間をかけて造りあげる酒は、献饌における最上位の一品であり、神聖な極上品ともいへることを説いた。
 「生活文化」の分野における初の重要無形文化財の指定及び保持者の認定の答申にあたり、さうした伝統の「わざ」の背景に、先人たちが受け継いできた精神性、ひいては信仰が存在することも改めて確認したいものである。
令和八年十一月二日

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