論説
教誨師研究会 信仰の言語化といふ営為
令和7年10月13日付
2面
今号掲載の通り、「神道講話による教誨 英霊顕彰を事例として」を主題とする第七十四回神社本庁教誨師研究会が九月二十九・三十の両日、北海道函館市で開催された。
今回の研究会は、今年が大東亜戦争終結八十年の節目の年にあたることを前提に、平和の尊さの再確認や国を愛する気持ちの醸成などが、被収容者の改善更生・社会復帰に向けた支援にも繋がるとの認識に基づき企画。また今年六月一日に懲役と禁錮を廃止して新たに拘禁刑を創設する「刑法等の一部を改正する法律」が施行されたことを受け、刑事施設におけるさまざまな指導プログラム導入など矯正処遇の変更点等も踏まへつつ、神道講話による教誨活動の方途を研究していくことを意図したものだった。
研究会の成果に基づき、神道講話による教誨活動がさらに充実していくことを期待したい。
○ 研究会では、東京・靖國神社や宮城・志波彦神社鹽竈神社で奉仕し、教誨師も務めた野口次郎氏が「戦没者の記録に涙する被収容者たち」と題して講演をおこなひ、英霊を取り上げた自身の教誨活動の実践例などを紹介。また「拘禁刑導入と新たな処遇~函館少年刑務所の現状を中心に~」と題して講演した函館少年刑務所の渡邊真也所長は、拘禁刑導入と、それにともなふ函館刑務所における取組みを解説した。さらに引き続いての分散会では、教誨活動における英霊顕彰に係る講話の有効性・必要性、各自の教誨活動の内容・方法、所属施設の状況などについて意見を交はし、翌日の全体会において各分散会の代表者がその内容を報告してゐる。
この全体会の報告では、かねて課題となってゐる教誨師の後継者養成に関し、施設内での祭典奉仕など現場体験を通じ、教誨活動の周知を図っていくことが重要との意見等が紹介された。神社本庁の教誨師は全国で百四十人。各都道府県の人数には差があり、一人だけといふ場合も少なくない。後継者養成を目的として平成十九年に導入された教誨師補助員制度の活用を含め、より広く教誨活動の現場を体験する機会を設けることで斯界内部への周知にも努めつつ、有為な後継者の養成が図られることを切に望むものである。
○ 神社本庁草創期から神道教化に携はった庄本光政は教化活動について、「神道的理念の具体的滲透を目的とする一切の対社会活動であつて、歴史的には神社神道の伝統を継述し、理論的には神道神学に立脚した、信仰上のみちびきやあらゆる教育活動を指すものであつて、その成果は社頭の正しい繁栄となつてあらはれるもの」と定義した。
その意味では、例へば神道政治連盟の活動なども教化活動の一環として捉へることが可能であって、また言語の発声、発話をともなふ教化に特化したものとして神道講演全国協議会などの取組みがあり、より身近なものとして社頭講話が挙げられよう。教誨活動の講話やカウンセリングも、対象や場所が極めて特殊だがさうした教化活動の一つであり、今回の研究会における野口氏の英霊顕彰に関する講演内容こそ、まさにその好事例に他ならない。
古来、「惟神の道言挙げせず」といはれ、親から子、子から孫へと自然に受け継がれてきた神道信仰。最近はさうした世代間の継承が困難となり、神職による説明が必要となるやうな場面も増えてゐるやうだ。神社神道の伝統・神道教学に基づき神道的理念を言葉で説明するといふ営為は、神職の誰もが求められるものだらう。平素から信仰の言語化に努めて研鑽を深め、さうした延長線上に教誨活動を捉へることで、その裾野拡大にも努めたい。
○ もとより後継者養成に限らず教誨活動をめぐる課題は多い。今回の研究会では、教誨師会の運営にあたり他宗教の教誨師との関係性等に苦慮してゐるとの事例が紹介された一方で、懇親会や研修旅行を定期的に開催することを通じ、教誨師同士の相互理解に努めてゐるとの話などは印象に残った。
精神的な負担をはじめ神明奉仕のなかでの時間のやり繰りなど、日々の教誨師の労苦は想像に余りある。教誨活動が教化活動の一環であり、「その成果は社頭の正しい繁栄となつてあらはれるもの」であることを肝に銘じつつ、支援・協力体制の充実などを含め引き続き斯界を挙げて取り組みたい。
令和七年十月十三日
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